フリーランスの手帖

自由な働き方をするための備忘録

「言葉の根っこ」を意識したら仕事がスムーズに進むようになった話

 

デザインのミーティングに張り詰める緊張感

私のデザイン事務所は、私と常勤スタッフ、そしてときどき入ってもらうお手伝いさんという2.5人体制で動いています。なので、ほとんど私とスタッフの2人でアイデアを出し合って仕事を進めていく感じになっています。

 

ところが、私とこのスタッフとのコミュニケーションにはちょっとした問題がありました。うちは、定期的にミーティングをしてクライアントごとの方針を決めたり、進行中のプロジェクト確認をしたりしています。

 

問題はいつもこのミーティングで起こります。スタッフが出してくれた意見に対して私が疑問を投げかけると、いつも独特な緊張感が張り詰めて、空気がずーんと重くなり、話がまったく前に進まなくなってしまうのです。

 

毎回ではないのですが、少なくとも3回に1回くらいはそうなっていたかなと思います。質問の仕方やタイミングを工夫してみたけど状況は変わらず、正直、仕事にもかなり支障が出ていたので、けっこう本気で悩んでいました。

 

質問されることは自分自身を否定されること

時間をかけていろいろ工夫してみたけど全くいい方向に向かわなかったので、とりあえず私は、例の緊張感が漂って来るたびに「なにか嫌な思いをさせてしまってる?」と率直にスタッフへ尋ねてみることにしました。

 

スタッフも最初はそんなことないと遠慮していたのですが、回数を重ねるごとに少しずつ本音を話してくれるようになりました。いろいろと複雑な思いがあったようでしたが、一番の要因をまとめると、スタッフにとって、自分が出した意見に質問を投げかけられると自分自身を否定されているように感じてしまうということでした。

 

私は素直に驚きました。もちろん私の質問の意図は、スタッフの考えを深く理解することで、2つの頭でより良いアイデアをひねり出すことにありました。けどずっとスタッフにはそのように伝わっておらず、自分のアイデアに対する質問を、自分の価値や能力への疑問として受け取っていたようなのです。

 

ひとまず、原因がわかって私はほっとしました。それと同時に申し訳ない気持ちになりました。一刻も早く、この誤解を解かなければなりません。

 

意見形成のプロセスと「意見の根っこ」

まず私が考えたのは、“そもそも意見ってどういうふうにできるんだろう?”ということでした。そのプロセスが言語化できれば、スタッフが自分を否定されている理由もわかるかもしれないと思ったからです。

 

まず、大前提として私たちのミーティングにおける「意見」は、「クライアントの課題を解決するための手段の提案」のことです。課題を解決するためにいろんな方法がありますが、自分はこうしたほうがいいと思う!というのが意見です。

 

そして意見には、必ずそれを支える「課題」と「仮説」があります。この意見を支える2つの要素を、私たちは「意見の根っこ」と呼ぶことにしました。

 

例えば「Webサイトへの訪問者を増やしたい」というクライアントからの依頼があったとします。この依頼に立ち向かっていくとき、まず「検索エンジンへの表示順位が安定していない」、「広告がターゲットの目に届いていない」、「ビジュアル的なインパクトや魅力がない」などの原因となっていると考えられる事実を並べ、優先順位をつけて対応していきます。ここで、「ビジュアル的なインパクトや魅力がない」を優先的に対応すべきだと判断した場合、これが課題となります。

 

次に、この課題に対して仮説(対応策)を立ててきます。例えば「キービジュアルを変更することでイメージが変わるのではないか」「親しみやすいマスコットキャラクターを作ることで印象が柔らかくなるんじゃないか」といった感じです。ここでは「キービジュアルを変更することで劇的にイメージが変わるんじゃないか」がしっくりきました。そして、この仮説に基づいてはじめて「私はデザインを変更したほうがいいと思う!」という意見が形成されます。

 

前ほどではないですが、やっぱりまだまだデザインは空から急に降ってくるもの(インスピレーション重視)と思われているところがあります。だけど、実際の現場は理屈の積み重ねとか地道な作業が本当に多いです。

意見形成のプロセス

 

意見への疑問を否定的に受け止めてしまう理由

このプロセスを考えたときに、スタッフの「自分が否定されたと感じる」という言葉の意味が少しずつ見えてきました。

 

意見は、仮説と課題に基づいて選択を重ねた上に成り立っているひとつのアウトプットなので、「意見」「仮説」「課題」の中でもっとも自分の意志が反映されているもの=自分を表現したものです。いつもスタッフが真剣に仕事に取り組んでいることは重々わかっていたので、その満を持したアウトプットに対して疑問を呈されることでスタッフは「自分は間違っているのかも」、もしくは「自分が否定された」と感じていたのかなと思います。

 

これは後からきいたんですが、彼女も、否定する意図がないことはわかっていたみたいで、いろいろと変わろうと努力したりいろんな葛藤があったみたいです。私としてもそんなつもりはないよ!そんな考え方をしなくていいよ!と諭し続けることもできたのかもしれないけど、直感的に嫌だと感じてしまうものはしかたがないので、やっぱりやり方を変えてみようと思いました。

 

意見の根っこのほうに論点をシフトする

私が意識したのは、できるだけ意見についての話を後回しにすることです。

意志がより深く反映されている「意見」部分について話をすることで嫌な思いをするのなら、もっと意志が反映されていない(より事実に近い)根っこの部分から話を進めていけば、そのようなことが起こらないのではないかと思ったのです。その効果は絶大なものでした。

 

例えば、スタッフが「デザインを変更しよう」と提案してきたとします。これまで意見部分を論点にしていたとき、私は「なぜデザインの変更が必要だと思ったのか?」と尋ねていました。これがスタッフにとっては苦痛だったようで「デザイン変更が間違っているよ」「なんでそんな意見になってしまうの?」という意味が頭の中にちらついてしまっていたそうなんです。

 

なので、意見の根っこに論点をシフトさせることを意識して「どういう課題を解決しようと考えてこれを思いついたの?」や「この他に考えた選択肢(仮説)はある?」と尋ねるようにしてみました。すると、スタッフは素直に「SNSに力を入れることも考えたけど、まずはWebサイトのデザインを訪問者のイメージに合わせることが優先だと思った」と答えてくれるようになったんです。

 

これは私たちにとっては、ほんとにほんとに革命的なことでした。。

 

自信を持って楽しく仕事をする

この新しいコミュニケーションスタイルを取り入れてから、チーム内のコミュニケーションは大きく改善されました。以前よりも議論は活発になり、アイデアの質も向上し、なによりミーティングの時間が半分くらいに短縮できています。

また、クライアントとの関係にも良い影響があり、スタッフが自信を持って提案できるようになったことで、クライアントにもその自信が伝わり、信頼を寄せていただけるようになりました。

 

些細なこと変化かもしれませんが、この改善によってお互いより一層信頼関係が深まって楽しく仕事ができています。

 

お互いの小さな思いやりが、人間にとっての大きなエネルギーになるぞ~という感じで解釈しています。